一人ひとりの「物語」を本を読むように味わうことが誰かの“回復”につながる

悩みがあったときに、この悩みを抱えているのは自分だけな気がした経験はありませんか?周囲の人に気持ちを伝えられず、悩みを抱え込んでしまったことが、誰しも一度はあるのではないかと思います。

私も新卒で入社した会社をやめたいと思ったときに、どんどん問題が大きくなり、なかなか周りに頼ることができずにいた時期がありました。悩みを相談できた時の安心した気持ちを今でも鮮明に覚えています。

先日行われた「soar human library」は、soarの記事に登場していただいた7名のゲストをお招きし、これまでの人生ストーリーを聞くだけでなく、参加者からも気軽に質問ができるイベントでした。

human libraryは、人と人が互いに理解を深めることを目的として開催されるもの。ゲストの人生を「本」に見立てて、人生で悩んできた経験やどのように自分と向き合っていったのか、伝えたい想いについて、参加者とじっくりと話し合うことができたイベントになりました。今回は、ゲストが話してくれた内容の一部をお届けいたします!

イラストレーターとして活躍しながら双極性障害Ⅱ型と向き合うますぶちみなこさん

一人目のゲストは、soarの記事でも使われるイラストを描いてくれているますぶちみなこさん。

年齢を重ねるごとに、手が震える、動悸がするなどの症状を自分の意思で対処しきれなくなったことを友達に相談したところ、「双極性障害Ⅱ型では?」と教えてもらったことがきっかけで、病気に気付いたのだといいます。

気分の上がり下がりは、性格の問題だと思われがち。ご自身でも気分が上がっている状態が通常だと思い、落ち込みやすい性格だと感じていました。しかし、実際には気分が上がりすぎている状態を安定した状態に戻すことが必要でした。

ますぶちさん:まずは、身近な人に伝えてみてほしいです。病気のことだけではなく、「こんな症状があるので、出勤しづらくなる」など“説明”できることが大事です。そうしたら、「じゃあ、どんな工夫をしよう」と考えられるので。

現在は、イラストレーターのお仕事をされていますが、症状が完全に回復したわけではありません。そのため、自分の取扱説明書を作って、周囲の人に理解してもらう工夫をしていると教えてくれました。

“性同一性障害”だと公言して活躍を続ける浜松幸さん

浜松さん:この中にAB型の人っていますか?結構いますね(笑)。実はそのぐらいLGBTの人も周りにいるんですよ。

そう話してくれたのは、二人目のゲスト浜松幸さん。幼少期より女の子としての自分に違和感を抱えていました。高校時代に 「女性の体で、自身を男性であると認識し、女性を好きになる」トランスジェンダーであると自覚したそう。

学生時代は、まだまだLGBTが受け入れられる環境は身近になかったため、頑張って“女子高校生”として生活していたのだといいます。

浜松さん:はじめは、カミングアウトしない方がいいと言われたんですよ。でも、勇気をもって話したら「え、そんなこと?」と言われて拍子抜けしました。自分のまわりの世界では、そんなに重大なことではなかったんですよね。

参加者の方から「カミングアウトをした経験」について質問された浜松さんはこのように話してくれました。

最近では、LGBTの人が周りに増えていると感じる人が多いのだといいます。しかし、実際には増えたのではなく、話しやすい世の中になったことが理由だと語ります。

話しやすい世の中になりつつはあるものの、全ての人にLGBTであることを理解してもらうのは難しいかもしれない。そのため、周りの人に「こうあってほしい」と思うのはやめて、「自分はこうだ。それでいい。」と思える社会をつくりたいと話してくれました。

パニック障害、うつ病を経て起業に挑戦した林晋吾さん

三人目のゲストは林晋吾さん。忙しい毎日、任される責任あるプロジェクト。やりがいがあり、前のめりに仕事に取り組んでいたけれど、ある日突然「ご飯が食べれない」「寝れない」などの症状がでるようになった経験があります。

林さん:確かに体調がおかしいなとは思っていたんですけど、普通に生活していました。そしたらある日、電車で“死んでしまうのではないか”と思うほどの動悸や発汗が起きました。

のちに調べたところ、パニック障害の症状だと判明。病名がわかった時は、「これで仕事を頑張らなくてすむ」と、安心もしたと話してくれました。

林さんは、その後も転職をして、頑張って成果をだす過程で、いつのまにか自分自身のキャパを超えた仕事を引き受けてしまうというループを繰り返し、うつ病を患うことになります。

林さん:うつ病のときはどん底だったけれど、自分の弱さと向き合う過程で気が付いたのは、自分が持っている前向きさだったと思います。そこからは、いろんな人に頼ることもできるようになりました。その変化は大きかったですね。

自分の弱さを誰かに打ち明けるのは難しいことかもしれません。でも、ご自身の経験から「自分の状態を伝えること」の大切さを語ってくれました。

現在は、うつ病の方のご家族向けコミュニティ『encourage(エンカレッジ)』を運営。これからたくさんの人のサポートをしていきたいと考えているそうです。

悩める女の子を励ましたい。そんな思いで活動を続ける野邉まほろさん

まほろさん:高校生の時まで下剤を90錠飲んでいたけれど、摂食障害だとは思っていませんでした。ただの食いしん坊だと認識していて、なんでこんなに苦しいんだろうと悩んでいました。

ご自身の経験を赤裸々に語ってくれたのは、摂食障害を克服され、現在は「過食症に悩む女の子を励ます」ことをテーマに活動をされている野邉まほろさん。

たくさんの人の相談にのっている中で「本当に今すぐに治したい?」と質問すると、ほとんどの人が少し答えに迷ってしまうそうです。

理由は人それぞれで、「食べたら吐くという習慣がなくなってしまうのが怖い」「自分のアイデンティティがなくなってしまうかも」という不安を抱えている人も多いと教えてくれました。その上で、摂食障害がなくなっても大丈夫、それでも生きていくんだ、という意志が大事だと語ります。

まほろさん:「そのままのあなたでいいよ」と言われることもあるけれど、それは少し違う気がしていて。頑張ることはする。でも目標値までいかない自分も受け入れることが大事かなと思います。

「完治」という言葉が使われますが、どこを完治とするのかは難しい問題です。例えば体型や食への興味がなくなったわけではなく、ダイエットはしているし、いやなことがあるとポテトチップスを一袋食べたりしてしまう。でも、その時に「あ、食べ過ぎちゃったな。今日はもう寝よう」と思える状態もひとつの完治の形なのだといいます。

様々な「完治」の形がある中で、まほろさんにとっては「完治」ではなく「卒業」という言葉がしっくりくると話してくれました。

先天性四肢障害がある子どもと家族が支え合う仕組みをつくる浅原ゆきさん

続いてのゲストは、手の指が3本で生まれてきた娘を育てながら、同じ悩みを抱えている家族が支え合う仕組みをつくるNPO法人Hand&Footを運営されている浅原ゆきさん。

娘さんがお腹の中にいるときには、指のことは全くわからず、生まれてから事実を知りました。

夢なのか現実なのかわからない。そんな状態の中で頭に浮かんできたのは、「私のせいなのかな」「あのとき走ってしまったな」という自分を責める気持ちだったといいます。

浅原さん:なんとか娘の指を5本にしたいと思っていたんです。私の指をあげようとすら思っていました。

大人になると勝手に自分の限界を決めつけてしまい、チャレンジすらしないこともしばしば。しかし幼い娘さんのなんでもやってみようとする姿勢から、指を5本にするのではなく、できないことがあってもやり方を変えてみればいいということを学んだのだそうです。

浅原さん:活動する中で、普通に接するってどういうことなのかやっとわかった気がしています。普通に接するということは「相手の普通を理解して受け入れること」だと思うんです。

本来、「普通」は人によって違っているはず。そして、きっと人は違うからこそ、新しい出会いが楽しいのではないかと思います。

髪を抜いてしまう「抜毛症」を公表して生きる土屋光子さん

カミングアウトする勇気がすごいですよね。なんでそんなにポジティブなんですか?

そう参加者の方に聞かれるほど、明るく素敵な笑顔の土屋光子さん。

そんな土屋さんにもストレスなどの原因から自分の髪の毛を抜いてしまう「抜毛症」に悩んだ経験がありました。

土屋さん:ある日、誰かを好きになる前に、まずは自分のことを好きになりたいと思ったんです。公表した今でも、どう思われるだろうとドキドキすることはたくさんあります。でも、自分の心地よさを考えたとき、怖さよりも楽しさを中心にしていたいと思うんです。

明るく生きていたいと話す一方で、「寂しい」と感じる瞬間やその感情をマイナスに解釈する必要はないとも話してくれました。

寂しさの原因を外に求めない。自分への愛情があれば寂しさと依存は自ずと消えていくのかもしれません。

「誰かとご飯を食べるのが苦手」な会食恐怖症を克服した山口健太さん

最後のゲストは、会食恐怖症の症状に悩んでいる方に向けてカウンセリングや、会食の練習(曝露療法のサポート)、情報発信などをしている山口健太さん。ご自身も会食恐怖症に悩んだ当事者のひとりです。

山口さん:理解してもらうことは難しいと感じています。なのでまずは理解を求めずに、相手が受け取りやすい表現を探すことが大切だと思います。「会食恐怖症」と言わずに「外食すると緊張する」「人とご飯を食べるのが苦手」と伝えてみるみたいに。

「理解して」とお願いばかりするのではなく、「克服したくて頑張っている」ということも一緒に伝えていくことが大切だと話します。

山口さん:会食恐怖症の方は「早く食べないといけない」「残さず食べないといけない」と思っているんです。それらができない自分はダメだと考える。でも「そうじゃなくても大丈夫」と思えるようになる事の方が大切なんですよね。「食べることが遅い自分、ご飯を残してしまう自分でも大丈夫!」と思えるために、まずは受け入れて、許してあげることです。

お腹がすいていればご飯は食べられると思っている人も多いですが、実際にはお腹が空いていて、かつ体がリラックスしていないと食事はできない。心のケアもしていくことが大切なのだと感じました。

本を読むように誰かの“人生”をあじわう

ゲストの人生をじっくりと聞くことができた今回のイベントを通して私が感じたことは、自分の人生と向き合い、歩んできた人たちの人生ストーリーを聞くことが、“回復”を後押しするということでした。

話を聞いていると、誰一人として同じ人生を歩んではいないことに気がつきます。完璧を目指したり、一般的に言われている「普通」になろうとすることよりも、今の自分をまずは自分で認めてあげること。それが、これからを笑顔で生きていくうえでの一歩になるのではと思うのです。

そしてもうひとつ。気持ちを共有しあった仲間との繋がりは、自然に涙が溢れるほど気持ちを温かく包んでくれるものでした。

今の自分を受け入れて、素直な気持ちを共有することで、人と深く繋がることができる。そんな希望がみえたイベントとなりました。

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