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“困りごと”を周囲と一緒に研究し語り合う。べてるの家の「当事者研究」体験プログラムに参加してきました!

もしも、なにか困ったことに出会ったらどうしますか。

まずは自分で考える?誰かに相談する?いったん困りごとから離れてみる?

実は私自身もともとはあまり人に相談するタイプではなく、「まずはよく自分で考えて、できることをしよう」という考えを持っていました。悩みを人に言うのが恥ずかしい。どう思われるかわからなくて不安。弱いところを見せたくない。人に開示できない理由は様々あったのだと思います。

でもそうするとたまに、一人で抱え込んだがゆえに煮詰まって疲れてしまうことがありました。そんな私ですが今は、「人に共有する」ことで得られる安心や楽しさを、少しだけ知ってしまいました。それは「べてるの家」の当事者研究という取り組みに出会ったことがきっかけです。

そんなべてるの家と、当事者研究の様子を今回はお届けしたいと思います!


自分の体験を伝えて、みんなのものにすること

2018年夏、soar取材チームは北海道浦河町にある、統合失調症などの精神疾患がある人たちが暮らし働く場所「べてるの家」に取材に行ってきました。年に1回行われる「べてるまつり」の様子や、べてるの家の見学プログラムの様子も紹介しているのでそちらの記事もぜひご覧ください。

「安心して絶望できる人生」は、苦労を受け入れることから始まる。「べてるの家」のべてるまつりで学んだこと

病気は「隣人」だとべてるの家から学んだ。適応障害になった僕が始めた“自分助け”(鈴木悠平)

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べてるまつりの翌日である8月5日(日)、私たちは再び浦河町文化会館に集まりました。この日行われたのは「公開・当事者研究ミーティング」。司会はべてるの家代表理事の向谷地生良さん、ゲストはべてるまつりでも登壇していた依存症からの回復施設「ダルク女性ハウス」代表であり、精神保健福祉士の上岡陽江さんです。

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「当事者研究」とは2001年にべてるの家から始まった、統合失調症の症状でもある幻覚や幻聴、妄想などの自身の症状について研究し、周囲と語り合い、対処法を探していくという手法のこと。向谷地さんが統合失調症の青年に「研究してみないか?」と言ったところ、青年がやる気を出して病気について研究・発表をしたことがきっかけで始まったそうです。

向谷地さん:2002年に『べてるの家の「非」援助論』で当事者研究を紹介後、2005年あたりに上岡さんがこの考えに出会って、「私たちもこれで生きられると思った」と話してくださったんですね。上岡さんと私たちの交流はこうしてゆるやかに始まりました。

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上岡さんからは、アルコールやギャンブル依存症の人たちのミーティングでの、自分の失敗をエピソードとして話して周囲とともに笑い合う姿が、べてるの家の当事者研究の雰囲気と重なるところがあったのだという話も飛び出しました。

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上岡さん:私たちのミーティングでは、エピソードはひどければひどいほど喝采があります!例えば私は離婚したんですけど、その経験談とかは注目浴びれるんですよ(笑)。失敗もたくさんしたけれど、自分の体験を伝えて、みんなのものにすることで生きてきました。ひとりで失敗を抱えてるとそれは「問題」だけど、誰かに話したら変わるんですよね。


「好きなもの」を共有することで笑顔に包まれる

ここからは上岡さんがファシリテーターとなり、簡単なワークを行いました。まずは会場にいる全員で、「自分の好きなもの」をなんでもいいから一つ出し合う時間です。

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好きな色、音楽、食べ物をなど、とにかく「好き」でホワイどボードをいっぱいする。上岡さんはこの試みを、虐待やいじめを受けている人たちとのワークでも行なっています。理由は、ワークショップによって自分や他者と向き合うことでフラッシュバックが起こってしまう可能性がある一方、「好き」を挙げるワークではもフラッシュバックが少ないから。

上岡さん:「好きなもの」というと、依存症のある当事者は「クスリ」とか「お酒」とかってちゃんと言ってくれるんですけど(笑)、支援者側は何が好きかを意外とわかってないこともあるんです。支援者はあれこれ話しているうちにわかることが多いですね。

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早速上岡さんが参加者一人一人のもとを周り、全員の好きなものを聞いていきます。「さくらんぼ」「若い女の子と話すこと」「自分自身」「スマートフォン」などなど、多種多様な「好き」が集まりました。

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上岡さん:あなたの好きなものは?
参加者A:自分自身!
上岡さん:御苦労なさったでしょうね。
参加者B:私はスマホかな。
上岡さん:いいですね、これは5年くらい引きこもれますね。

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参加者と上岡さんの掛け合いでは会場から笑いが起こる場面も頻発!たった一言「好き」を発信するだけでも、こんなにも打ち解けることができるのかというくらい、会場の雰囲気が明るいものになりました。


“病気になっても人生終わり”じゃない

その後は三人一組のグループで好きなものについて語り合います。この時私は偶然にもべてるの家のメンバーであり、べてるまつりの幻覚妄想大会で当事者研究賞を受賞していたマツムラミチエさんと同じグループに!ちなみにマツムラさんの受賞内容はこちら。

「人が勝手に部屋に入り、自分の物を盗む」という妄想の苦労を抱えながらも、今では夢にまで見た一人暮らしに挑戦。お金の管理も、買い物も料理もできなかったのに、べてるのホームヘルパーやメンバーの力を得て、見事に一人暮らしを実現しています。

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私が渡したsoarの名刺をみて、マツムラさんも水色が好きで、さらに天使が好きだということでsoarのロゴマークの羽のマークをとても褒めてくださいました!そして私はマツムラさんが引っ越しをするときに、大家さんにペットを飼っているかを聞かれて「ユニコーンを飼っている」と正直に答えたのだというエピソードが大好きなのだと伝え、すっかり意気投合!

その後もたくさんの話をしました。印象的だったのは、マツムラさんは天使が出入りできるよう部屋をとても綺麗に保っていて、毎日朝起きたら欠かさず拭き掃除をしているという話です。実は私は掃除が苦手で悩みの一つでもあったので、マツムラさんのことを心から「すごい!」と思って伝えました。

他にもマツムラさんはヨガが大好きで、べてるの家でメンバーに向けて講師として教えることもあるのだそう。これまた「すごい!」と思って、次に浦河に来た時は私も教えてもらう約束をしました。

こんな風に自然に会話をしながらふと、「病気があってもやりたいこともをする。本来誰もが経験するような苦労も奪わない」というべてるの家の考えがまさに体現されていることに気づきます。

「病気があるからやりたいことは治ってから」
「病気があるから大変なことはしなくて良い」

そうではなくて、マツムラさんはヨガにも一人暮らしにも挑戦している。病気があったとしても、掃除をはじめ私が苦手なことやできないことも、マツムラさんはたくさんできるんですよね。考えてみたら当たり前なのですが、「病気になったら終わり」じゃないのだと目の前のマツムラさんが教えてくれたような気がして、すとんと腑に落ちました。


「3番目に困っていること」を研究

3人のワークの後は、私たちまつりに訪れた参加者で、当事者研究に挑戦です!

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20人程度のグループに分かれて、まずは全員で「3番目に困っていること」を言い合いました。もちろんべてるの家では1番困っていることを研究にするのですが、今回は体験のため悩みの内容が重くなりすぎないようにということで、みなさん気軽に困りごとを出していきます。

一部屋だけどうしても片付けられないこと。
離婚をしたからお金がないこと。
おやつに毎日唐揚げを食べてしまうこと。

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中には「それって1番目じゃないの!?」というくらい大変そうな内容もありながら、うなづいたり、「わかる」と小さくつぶやいたり、時には首を傾げたりしながら参加者同士でお互いの困りごとを伝え合いました。その後は少しインタビューをして、内容を深掘りしていきます。

どうして一部屋だけしか片付けられないの?
その部屋にものを全部詰め込んで物置のようにしているんです。

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ファシリテーターのべてるスタッフからは「これをするとどんないいことがあるんですか?」と質問が。

この部屋に他の部屋のモノも全部置いているので、おかげで他の部屋は綺麗に保てています。

他の参加者からは思わず「へえ〜なるほど!」と声もあがります。そして最後に、「さらによくする点」を話し合いました。どんな工夫ができるかの案もたくさん挙がりましたが、意外に多かったのが「あきらめる」「そのままでもいいんじゃない?」という意見です。

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例えば「おやつに毎日唐揚げを食べてしまうこと」に対して多数決をとったところ、8割ほどの人が「そのままでも良いと思う」という考えでした。これには悩みを持ち出した本人がびっくり!

そんな風に言ってもらえるなんて思わなかった。食べてしまう自分を責めていたけど、いいのかなあ。

安堵した表情でそんな風に話していました。

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最初は見よう見まねではじめた当事者研究ですが、終わってみるとすっかりさまになっていたグループもあったようです。真剣な議論をしていたり、ひたすら笑い声が湧き上がっていたりと、参加者同士もすっかり仲間のように打ち解けているグループもありました。

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「そうなんだ」と受け入れる。「あるよね」と共感する。「こうしてみれば?」と提案をする。「そのままでいいんじゃない?」と肯定する。

当事者研究ではこんなことの繰り返しで、誰かの話がその人のもとを離れて、みんなの議題として分かち合う光景がありました。

誰かと共有をすることで、こんなにも世界が広がり、一人じゃ辿り着けなかった選択肢に出会うことができる。そしてたとえ問題が解決しなくても、それでもいいんですよね。自分が心地よく生きていくためにどうしたら良いか。そのためには結果が変わらずとも、捉え方を変えるだけでもこんなに安心できるんだということは、きっと多くの人の肩の荷をふっと軽くしてくれるでしょう。

当事者研究、実はsoarでも真似をしてメンバーで取り組んだりもしています。ぜひべてるの家をお手本にして、皆さんも挑戦してみてくださいね。

written by 松本綾香/soar編集部
Photo by 田島寛久
関連情報:
当事者研究が気になる方は、下記書籍もおすすめです!
『べてるの家の「非」援助論』
べてるの家の「当事者研究」
レッツ!当事者研究1
レッツ!当事者研究2
べてるの家に関する記事:
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病気は「隣人」だとべてるの家から学んだ。適応障害になった僕が始めた“自分助け”(鈴木悠平)

テーマは「爆発と金欠」!?病気を仲間とともに研究する、べてるの家の「当事者研究」を見学しました

カフェや畑に診療所も!精神障害のある人たちの地域活動拠点「べてるの家」を紹介します


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